ドクター関口のちょっとセクシーな女子会ブログ

女性医療クリニックLUNAグループ理事長のプログです。健康ネタ、マンガネタバレ、旅行ネタ、歌舞伎ネタが豊富です。

尿失禁手術後の排尿困難と尿失禁手術の歴史(2)(改訂版)

(TVT手術の出現)

このTVT手術では、それまでの“膀胱尿道移行部を吊り上げる”から“
中部尿道の下に人工テープを、緊張を与えないで、
ただ置くという”という手術法の
大きな転換がありました。

このテープやシートを、緊張を与えずただ置いてくると、
尿失禁や骨盤臓器脱などの骨盤底障害はよく治るという考え方は、
テンションフリー理論と呼ばれます。(注※6)
これにより尿失禁手術後の排尿困難率は激減します。

この手術の開発根拠になったのが、
1990年初出のウィルムステンとペトロスの共著インテグラル理論です。この理論では、尿道の中間付近に尿道をささえる
恥骨尿道靭帯があることを明らかにして、
この靭帯を支点にして骨盤底筋群の3つの成分
(前上方向き、後向き、下向き)が
瞬時に協調して収縮することによって
膀胱底がわずかに下垂し、その結果尿道が曲がって
閉鎖して尿もれを防ぐと考えました。
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よって尿もれがある場合は、
骨盤底筋群を鍛えて強化するか、
恥骨尿道靭帯の強度を高めればよいという発想をしました。
そして恥骨尿道靭帯の強度を高めるために、
人工テープを靭帯の近くに移植したのです。
この画期的な手術の成功率は90%で、
手術後尿もれが改善した患者に関しては、
排尿困難はほとんどないのが特徴です。
現在でもTVT手術は、入院期間は二泊三日から一週間くらいで
日本で行われています。

(注※6)
TVT手術の開発根拠であるインテグラル理論では、
尿失禁にも骨盤臓器脱にも、
協調運動の支点となる場所へのテープの使用が推奨されています。
しかしこの理論は理解が難しいので、
テープよりおおきなシートで、骨盤底をすっぽり覆って
補強すればいいのではという考えが、
テンションフリー理論の大きな流れになってしまったんです。
(これは、インテグラル理論を唱えているペトロス先生の
本意ではないですが、時代というのは、時として開発者の意図に
そぐわない方向にすすむことがあります。)
このたくさんのシートで臓器を下支えするという考え方が、
後の米国でのTVMによる医療事故の原因となります。
(このことに関しては、骨盤臓器脱の手術の歴史の項で
さらに書きたいと思います。)

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