(TVT手術の欠点)
素晴らしい歴史的な発明である尿失禁手術TVTですが、
欠点もあります。
膣から移植したテープを腹壁まで貫通させるために、
恥骨の裏の大きな血管を刺してしまい
後腹膜血腫がおこったり、
腹腔内と後腹膜の境界である腹膜を刺してしまい
腸閉塞が起こってしまう合併症が起こることがあるのです。
それらの合併症を回避するために開発されたのが、
当院で行なっている日帰り尿失禁手術TFSです。
このTFSですが、
TVTの開発者の一人であるペトロス先生の
オリジナル手術です。
TFS手術は、TVT手術同様に
膣から7mmのテープを、中部尿道に移植するのですが、
その先端は、膣壁から2cmくらい、
肥満がなければ腹壁から5cmくらいの場所にある
尿生殖隔膜に、ポリプロピレン製のホック(アンカー)で
引っ掛けるんです。
このホック(アンカー)は、6週間位置が固定されているための
仮止めで、その間にテープおよびホックの周囲に
コラーゲンが造成し、新たな恥骨尿道靭帯が再生されます。
この改良により前述の後腹膜血腫や腸閉塞等の合併症は、
ほとんどゼロにすることができるようになったのです。
そしてこの改良により日帰り尿失禁手術が可能になりました。
ところで現在日本でよく行われいるもう一つの手術に
TOT手術があります。
この手術も、テンションフリー理論(尿失禁手術の歴史の回参照)の
流れから開発された手術です。
膣から入れた中部尿道を支えるテープの端を、
尿道の左右にある骨盤を構成する骨の一つである
座骨にある孔、閉鎖孔に通します。
この手術でも、後腹膜血腫や腸閉塞の合併症が避けられるんです。
ですからTOT手術も、日帰りで行えます。
ではTFSとTOTの違いが何か?
実はテープの向きが違うんです。
TFSは、U字型にテープを置きますが、
TOTは、T字型にテープを置きます。
この違いによりTFSとTVT手術のほうが、
TOT手術より尿道抵抗が、わずかに上げるのです。
TOTは、インテグラル理論(尿失禁手術の歴史参照)
にもとずく骨盤底筋や恥骨尿道靭帯の脆弱化による尿失禁には、
TVTやTFSと同様効果的ですが、
尿道自体の機能が悪い重症の尿失禁に対する効果は、
TFSやTVTに劣るのです。
ですからTOTの手術後に尿失禁が改善せず、
再度TFS手術やTVT手術を行うこともあります。
ところで 尿道自体の機能が悪い重症の尿失禁かどうかは、
手術をする前に行う尿流動体検査で判定しますが、
患者の自覚症状的にも、重症な尿失禁
(1日に数回以上起こる1回の失禁量が、少量ではない尿失禁)
であることが多いです。
この尿道の機能が悪い重症の尿失禁を、
尿道括約不全と呼びますが、
尿道括約不全の場合、
スーパーな効果をもつTVTやTFSを施行しても、
尿失禁が患者の満足いくレベルまで改善しないことがあります。
その場合は、6か月後に再手術を行うこともあります。
結論ですが、テンションフリー理論にもとずいた
尿失禁手術のうち、閉経後〰90歳代まで施行可能な、
軽症~重症まで全ての尿失禁に対応出来る、
効果が高く合併症が少ない日帰り可能な手術が
TFSによる尿失禁手術ということになるのです。
(文献)
1、Yuki Sekiguchi, Manami Kinjo, Hiromi Inoue, Hisaei Sakata and Yoshinobu Kubota :Outpatient Mid Urethral Tissue Fixation System Sling for Urodynamic Stress Urinary Incontinece: J of Urology Vol 182,2810-2813,Decmber 2009
2、Ryoko Nakamura, Masahiro Yao, Yoshiko Maeda, Akiko Fujisaki & Yuki Sekiguchi:
Outpatient mid-urethral tissue fixation system sling for urodynamic stress urinary incontinence: 3-year surgical and quality of life results Int Urogynecol J DOI 10.1007/s00192-017-3341-4 Received: 15 October 2016/Accepted: 6 April 2017 # The Author(s) 2017.