さて夜の部の最初の演目は、坪内逍遥作
“沓手鳥孤城落月(ほとととぎすこじょうのらくげつ)”です。
歌舞伎の演目の一番古いのは、近松門左衛門等の江戸中期の作ですが、
多く上演されるのは、幕末〰昭和30年代作の作品です。
坪内逍遥もマハバーラタと同じで、
日本史で名前だけ暗記した人が多いと思います。
さてこの作品では、玉三郎が、淀の方を演じています。
淀の方って日本では、年に2~3回はどこかで誰かが演じていますよね。
その中にはよても賢くて、運命に従順な淀の方もおります。
しかし今回は、その反対のタイプ。
舞台は、落城前日の大阪城なんですが、
この淀の方は完全なわがまま悪女で、
千姫を大阪城の外に逃がそうとした関係者を全て殺し、
千姫にも暴力をふるっています。
しかし結局千姫には逃げられ、
千姫の赤い打掛をずっとズルズルと引きずってもっていますが、
最後の場所になる倉庫に入る時には、完全に正気ではなくなっています。
この正気でなくなった淀の方を支えて一門は、死出の旅路にでるという作品です。
この性格の悪い淀の方ですが、玉三郎が妖艶に演じています。
だいたい歴史的にみて、
いくら徳川家康が冷酷な奴だったとしても、
関ケ原の後くらいで、淀の方がさっさと世の中を見通して、大坂城を明け渡していたら、
加賀百万石ならぬ豊臣200万石・・・なんていうのが存在していたでしょうから、
淀の方に、世の中を見通せる目があったとは思えません。
まあ淀の方の生き方を現在に生かすとすれば、
将来の方向を決める際に、過去に損した資産(損失利得)を勘定にいれてはいけないという考え方ですね。
過去にどんなに栄華を極めても、人生、一寸先は闇です。
今後一番よさそうな方向性を過去を忘れて、冷静な目で見通す努力が必要でしょう。
2本目の演目は、
“漢人韓文手管始 かんじんかんもんてぐだのはじまり”
です。
主役は中村鴈次郎。
敵役が中村芝翫です。
中村鴈次郎は、
東京よりも関西で人気の歌舞伎役者です。
父は坂田藤十郎。現在現役最長老。女方ですよ。
母は扇千景。
弟は中村扇雀です。
息子は中村壱太郎です。
さてこの演目ですが、
結構よくあるパターンです。
舞台は長崎。
中国から使者を接待するため大名が饗応役に指名されています。
その大名の家老の伝七は、花魁の高尾太夫と恋愛関係です。
ところで、
この藩の殿も高尾の友人の名山太夫と恋愛関係です。
しかし
藩にはお金がなく、殿は名山太夫を身請けできません。
ある時
中国の役人が日本にやってきますが、この役人の一人が名山太夫に一目ぼれして、身請けしたがります。
さらに伝七の藩では、
饗応のために献上する予定だった名刀の誉れ高い槍の穂先を、盗まれてしまっています。
ところで
通訳長の典蔵も、実は高尾が好きです。
典蔵は、
伝七に高尾との仲をとりもつことを条件に穂先が偽物でもだまっていることや、名山大夫の身請け費用を工面することを約束してくれます。
伝七はこの時に、
自分と高尾がいい仲であることを典蔵に言いそびれてしまいます。
ある日典三が、
廓で飲んでいる時に高尾太夫がやってきます。
そして、
典三の話術にはまって、高尾太夫は典三に、自分と伝七がいい仲であることを暴露してしまいます。
典三は、怒りくるいます。
献上品の品評会の日
中国の使者のうち一人が病気になって、典蔵が代役をします。
典蔵は、
伝七の藩の貢物を偽物と暴露し、
さらに名山太夫も中国の役人に売り渡してしまいます。
伝七は、うろたえて典三の後を追います。
そして口論の末、伝七は典三を殺してしまいます。
ここで終わり!!
この中途半端に終わるかたが、通し狂言ではない場合の歌舞伎のパターンです。
最初のうちは、
なんでここで終わってしまうの?
と、非常に気持ち悪いんです。
でも何度も観ていると、
歌舞伎は筋も大事だけど、それに勝って歌舞伎役者の演技や踊り・舞台音楽を鑑賞する芸能なんだな
ということがわかってきます。
3つ目の演目は、
玉三郎と梅枝、児太郎の女方3名による
踊りと、琴の演奏。
私結構踊りの時に、寝てしまうんですが、
この3名の踊りはまったく眠くない
この世の者とは思えなない美しさでした。
美を満喫して、帰宅の途についた一日でした。