関口由紀のブログ

女性医療クリニックLUNAグループ理事長のプログです。健康ネタ、マンガネタバレ、旅行ネタ、歌舞伎ネタが豊富です。

尿失禁手術後の排尿困難と尿失禁手術の歴史(4)(改訂版)

(TVT手術の欠点)
素晴らしい歴史的な発明である尿失禁手術TVTですが、
欠点もあります。
膣から移植したテープを腹壁まで貫通させるために、
恥骨の裏の大きな血管を刺してしまい
後腹膜血腫がおこったり、
腹腔内と後腹膜の境界である腹膜を刺してしまい
腸閉塞が起こってしまう合併症が起こることがあるのです。
 それらの合併症を回避するために開発されたのが、
当院で行なっている日帰り尿失禁手術TFSです。
 このTFSですが、
TVTの開発者の一人であるペトロス先生の
オリジナル手術です。
TFS手術は、TVT手術同様に
膣から7mmのテープを、中部尿道に移植するのですが、
その先端は、膣壁から2cmくらい、
肥満がなければ腹壁から5cmくらいの場所にある
尿生殖隔膜に、ポリプロピレン製のホック(アンカー)で
引っ掛けるんです。
このホック(アンカー)は、6週間位置が固定されているための
仮止めで、その間にテープおよびホックの周囲に
コラーゲンが造成し、新たな恥骨尿道靭帯が再生されます。
 この改良により前述の後腹膜血腫や腸閉塞等の合併症は、
ほとんどゼロにすることができるようになったのです。
そしてこの改良により日帰り尿失禁手術が可能になりました。
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ところで現在日本でよく行われいるもう一つの手術に
TOT手術があります。
この手術も、テンションフリー理論(尿失禁手術の歴史の回参照)の
流れから開発された手術です。
膣から入れた中部尿道を支えるテープの端を、
尿道の左右にある骨盤を構成する骨の一つである
座骨にある孔、閉鎖孔に通します。
この手術でも、後腹膜血腫や腸閉塞の合併症が避けられるんです。
ですからTOT手術も、日帰りで行えます。

 ではTFSとTOTの違いが何か?
実はテープの向きが違うんです。
TFSは、U字型にテープを置きますが、
TOTは、T字型にテープを置きます。
この違いによりTFSとTVT手術のほうが、
TOT手術より尿道抵抗が、わずかに上げるのです。
TOTは、インテグラル理論(尿失禁手術の歴史参照)
にもとずく骨盤底筋や恥骨尿道靭帯の脆弱化による尿失禁には、
TVTやTFSと同様効果的ですが、
尿道自体の機能が悪い重症の尿失禁に対する効果は、
TFSやTVTに劣るのです。
ですからTOTの手術後に尿失禁が改善せず、
再度TFS手術やTVT手術を行うこともあります。
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 ところで 尿道自体の機能が悪い重症の尿失禁かどうかは、
手術をする前に行う尿流動体検査で判定しますが、
患者の自覚症状的にも、重症な尿失禁
(1日に数回以上起こる1回の失禁量が、少量ではない尿失禁)
であることが多いです。
この尿道の機能が悪い重症の尿失禁を、
尿道括約不全と呼びますが、
尿道括約不全の場合、
スーパーな効果をもつTVTやTFSを施行しても、
尿失禁が患者の満足いくレベルまで改善しないことがあります。
その場合は、6か月後に再手術を行うこともあります。

結論ですが、テンションフリー理論にもとずいた
尿失禁手術のうち、閉経後〰90歳代まで施行可能な、
軽症~重症まで全ての尿失禁に対応出来る、
効果が高く合併症が少ない日帰り可能な手術が
TFSによる尿失禁手術ということになるのです。

(文献)
1、Yuki Sekiguchi, Manami Kinjo, Hiromi Inoue, Hisaei Sakata and Yoshinobu Kubota :Outpatient Mid Urethral Tissue Fixation System Sling for Urodynamic Stress Urinary Incontinece: J of Urology Vol 182,2810-2813,Decmber 2009
2、Ryoko Nakamura, Masahiro Yao, Yoshiko Maeda, Akiko Fujisaki & Yuki Sekiguchi:
Outpatient mid-urethral tissue fixation system sling for urodynamic stress urinary incontinence: 3-year surgical and quality of life results Int Urogynecol J DOI 10.1007/s00192-017-3341-4 Received: 15 October 2016/Accepted: 6 April 2017 # The Author(s) 2017.