関口由紀のブログ

女性医療クリニックLUNAグループ理事長のプログです。健康ネタ、マンガネタバレ、旅行ネタ、歌舞伎ネタが豊富です。

尿失禁手術後の排尿困難と尿失禁手術の歴史(1)(改訂版)

以前、尿失禁手術後の排尿困難と尿失禁手術の歴史を、
ブログで書いたんですが、
マーケティングの武田さんから、難しいすぎる、
もっと簡単に書くように指示され、
必死で書き直しました。
今回は、豊富な画像付き、注釈付きです。

(TVT手術前)

20年前くらい前までは、尿失禁手術後の排尿困難は、
当たり前のことでした。
だって尿道が閉塞するように吊り上げていたんですから。
尿失禁手術後の排尿困難の確率が減ったのは、
2000年前後からです。

理由があります。
尿失禁手術のスタンダードが変わったからです。
革新的な手術の名前は、TVT手術です。
TV Tは、tension free vaginal tapeの略なんです。
日本語に訳すと緊張をあたえない膣のテープということになります。


それまでの尿失禁の理論では、膀胱と尿道の角度が重要でした。
この角度が適切に折れ曲がっていないと、
尿失禁が起こると考えられていたんです。
(注※1)
歴史的には、お腹を切って膀胱尿道移行部を露出して、
その左右を溶けない丈夫な糸で釣り上げるバーチ手術(注※2)と、
腹壁を切って腹直筋を露出し、その筋膜を摘出して、
この筋膜をテープ状にして、膣のほうから尿道下に移植して、
適切な張力で固定する。筋膜スリング手術(注※3)が、
30年くらい前までに生き残っていました。

この2つの手術は、今でもその効果は否定されていません。
現在でも行われています。
しかし2つの手術とも、たかが尿失禁にする手術としては、
侵襲度が大きいため、よっぼど尿失禁が重症な時(注※4)
しか行われませんでした。

そんな中、膣から膀胱と尿道の結合部あたりの左右を
糸で引っ張りあげて、膀胱と尿道の角度を正常化する
ステーミー手術が、その侵襲度の少なさ(注※5)のために、
隆盛を極めます。
 それで手術後1〜2週間は、排尿困難になるために、
手術前に自己導尿指導が行われ、
患者さん達は、糸が緩んで尿が出るようになるまで
自己導尿をして待っていたんです。
そして尿漏れも排尿困難も無い状態が長く続くのが
手術の成功でした。
しかし排尿困難がなくなると、
また尿失禁がはじまってしまう患者さんも多く、
再発率は40%にも及んでいました。
それでやっぱり尿道の下に何かを入れて
支えなければダメだということになり、
歴史的に効果が認められていた尿道筋膜スリング手術が
復活していた矢先に、
日本に上陸したのが前述のTVT手術です。
この手術の出現により、膀胱と尿道の角度が正常であることが、
尿失禁が起こらないために必要なわけではない、
必要なのは、骨盤底筋の協調運動と、
その協調運動をスムーズに行うため支点の役割を行う
恥骨尿道靭帯の再生であるという“インテグラル理論”の
時代にはいって行きます。
今から20年弱前1990年代後半のことです。

(注※1)それまでは、正常な膀胱と尿道の角度を、
膀胱造影上の後部尿道膀胱角という指標で評価していました。
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(近藤厚生:尿失禁とウロダイナミクス 
手術と理学療法.医学書院1996年参照)

(注※2)バーチ手術
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(近藤厚生:尿失禁とウロダイナミクス 
手術と理学療法.医学書院1996年参照)

(注※3)筋膜スリング手術
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(近藤厚生:尿失禁とウロダイナミクス 
手術と理学療法.医学書院1996年参照)

(注※4)
重症尿失禁・・・
一般的には、1日数回以上漏れて、
漏れる量を大量であると患者が感じ、
その尿失禁で、患者が、自分の生活の質が著しく
損なわれていると感じる尿失禁のこと。

(注※5)ステーミー手術
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(近藤厚生:尿失禁とウロダイナミクス 
手術と理学療法.医学書院1996年参照)